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きっかけは妻の病でした。
妻の病を患ったことから代替医療として禅に目覚め、禅の姿勢をとれる椅子を作りました。
正しい姿勢、健康な姿勢を意識しながら椅子に座ってもらうことで、
お客様に健康になってもらいたい、というのが一番の大きな理由です。
ただ単にアートとしての椅子を作るというよりは、お客様が禅の心で正しく座り、
健康を取り戻すという喜びを共有したいという思いで禅の椅子を作っています。
禅と木工にはある意味共通性があると感じています。
禅というのは、今ここにある自分に向かい合うということが大事だと思います。
木工でも、例えば刃物を研ぐ時。
刃物から返ってくる振動、音、今どういう風に刃物と砥石が接しているのか、
ということに集中して他のことは何も考えていない。
ある意味、無の中にいるんですね。
僕はその世界は非常に禅に近い世界、無に近い世界かなと思っています。
そこに何か意図的なものが入ると、妙に力が入ってしまったり、
なかなかうまくいかなかったりします。
そういう意味では、禅の修練と木工の修練は近いものがあります。
また、木工-木を加工する-ということで言えば、
きっと木工というのは、木と道具と自分のハーモニーなんです。
そこに、どうしてもこの木をねじ伏せてこういうデザインにしなければならない、
という意図が入ると、なんかすごくハーモニーが失われてしまって、
美しいものにならないような気がします。
その3つが、無理なく最高のパフォーマンスを引き出すようなものが
一番いい、美しい木工になっていくのかなと感じます。
それは2014年のファニチャーソサエティー カンファレンス※に参加したあとのことです。
海外の若い木工家が日本の技術を学びたいといって、
私の工房に来るようになりました。
それ以降、1か月に一度くらいは、海外の方に向けて2~3日という短いワークショップを
開いています。
このような日本の技術を学びたいという海外の木工家たちが増えてきました。
なので僕は、自分の森でとれた100本の柱、100本の梁を使って新しい工房を作り、
そこを世界の人が集まる木工の交流センターにしたいと考えています。
僕が描いているのは広い工房です。
柱のない広い空間を作りたいんです。
柱があるとどうしても材料がぶつかってしまう。
そこで柱のない空間を作ろうと思うと、長い梁が必要になってきます。
長い梁を自分の森で作れるというのは大きなアドバンテージです。
これには、僕は、ウッドマイザーLT15を使っていました。
ウッドマイザーは非常にコンパクトで良い機械だと思っています。
日本の製材では、製材機が固定されていて丸太が動くのですが、
ウッドマイザーは全然逆の発想ですね。
軽い製材機を動かして丸太を固定する。
そうするとこんなにシンプルなもので製材ができるんだ、ととても驚きでした。
僕の森は戦争が終わってから70年、
ほとんどを手を付けずに放っておかれた森なので、
ものすごい量の松の木がありました。
あまりにも松の木が多くて、他の木が生えることができなくなっていました。
そこで僕たちは、家族や仲間と一緒に、松の木を半分に減らしたのです。
その結果、森の林床に光があたり、自動的に、
それまで日か当たらなくて芽がでてなかった広葉樹、
ハードウッドの芽がどんどん出てきています。
今、日本では林業はどんどん衰退の一途を辿っています。
それと同時に、製材をする業者さんも減ってきています。
僕の町の中でも、以前は3軒あった製材業者さんもなくなってしまいました。
製材をするのに、1時間も2時間も遠い町まで行かないとできなくなっています。
それが、ウッドマイザーがあれば、自分のところですぐにできるようになりますね。
もしこれが1人で大変だったら、何人かでシェアすればいい。
そうやって使えたら、地域の木もすごく生きるし、森を持続するにもとてもいい影響がでるんじゃないかと思っています。
僕が木工家の皆様へお伝えしたいメッセージがあります。
僕たち木工家は、森や材木や家具のことをよく理解して作っていると思います。
同時に僕たちは、木を使うものの責任として、
森のことも理解してそれを学ばないといけない。
学んだ結果、お客様と森を繋いであげる。
木の文化と持続性をお客様にも理解してもらえる。
このような森とお客様を繋ぐ役割を僕たちが負っていくべきではないのか。
それが僕たちの使命だと、僕は感じています。
※ ファニチャーソサイエティー カンファレンス 米国ノース・カロライナ州アッシュビルを拠点に、家具における創造性の進化や芸術性への理解を深めるために設立された有志メンバーによるNPO「ファニチャーソサイエティー」が主催する年に一度のイベントで、世界中から家具職人や木工家が集まり作品発表やセミナー、デモンストレーションが行われる。